妊娠・出産・育児休業等ハラスメント
の概要と事業主の義務
- 1. 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの概要と事業主の義務
- 1.1. 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの定義
- 1.1.1. 「職場」とは?
- 1.1.2. 「労働者」とは?
- 1.2. 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの類型
- 1.2.1. ①「制度等の利用への嫌がらせ型」
- 1.2.1.1. 1.対象となる制度又は措置
- 1.2.1.2. 2.防止措置が必要となるハラスメント
- 1.2.1.2.1. (1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
- 1.2.1.2.2. (2)制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
- 1.2.1.2.3. (3)制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
- 1.2.2. ②「状態への嫌がらせ型」
- 1.2.2.1. 1.対象となる事由
- 1.2.2.2. 2.防止措置が必要となるハラスメント
- 1.2.2.2.1. (1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
- 1.2.2.2.2. (2)妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
- 1.3. 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置と禁止事項
- 1.3.1.1. 男女雇用機会均等法
- 1.3.1.2. 育児・介護休業法
- 1.3.1. 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置
- 1.3.2. 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 1.3.3. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 1.3.4. 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 1.3.5. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
- 1.3.6. 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
- 1.4. 妊娠・出産等、育児・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止
- 1.4.1. 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
- 1.4.1.1. 男女雇用機会均等法
- 1.4.2. 育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止
- 1.4.2.1. 育児・介護休業法
妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの定義
男女雇用機会均等法では、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントについて、育児・介護休業法では、職場における育児・介護休業等に関するハラスメントについて定め、以下のように定義しています。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメントとは、
「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や 育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。
これらは、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と言われることもあります。
妊娠の状態や育児・介護休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当し、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。
「職場」とは?
労働者が通常働いているところはもちろんのこと、出張先や実質的に職務の延長と考えられるような宴会なども職場に該当します。
「労働者」とは?
正社員だけではなく、契約社員、パートタイム労働者など、契約期間や労働時間にかかわらず、事業主が雇用するすべての労働者です。また、派遣労働者については、派遣労働者のみならず、派遣先労働者のみならず、派遣先事業主も、自ら雇用する労働者と同様に取り扱う必要があります。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの類型
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。
ハラスメントの類型 | 該当する言動 |
---|---|
①制度等の利用への嫌がらせ型 | 出産・育児・介護に関連する社内制度の利用に際し、当事者が利用をあきらめるざるを得ないような言動で制度利用を阻害する行為など 1.解雇・その他不利益な取扱いを示唆するもの 2.制度の利用の請求等または制度等の利用を阻害するもの 3.制度を利用したことにより嫌がらせ等をするもの |
②状態への嫌がらせ型 | 出産・育児などにより就労状況が変化したことなどに対し、嫌がらせをする行為 1.解雇・その他不利益な取扱いを示唆するもの 2.妊娠等をしたことにより嫌がらせ等をするもの |
①「制度等の利用への嫌がらせ型」
「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、次に掲げる制度又は措置(制度等)の利用に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
1.対象となる制度又は措置
男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置 | 育児・介護休業法が対象とする制度又は措置 |
---|---|
①産前休業 | ①育児休業 |
②妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置) | ②介護休業 |
③軽易な業務への転換 | ③子の看護休暇 |
④変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限 | ④介護休暇 |
⑤育児時間 | ⑤所定外労働の制限 |
⑥坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限 | ⑥時間外労働の制限 |
⑦深夜業の制限 | |
⑧育児のための所定労働時間の短縮措置 | |
⑨始業時刻変更等の措置 | |
介護のための所定労働時間の短縮等の措置 |
2.防止措置が必要となるハラスメント
(1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
労働者が、制度等の利用の請求等(措置の求め、請求又は申出をいう。以下同じ。)をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆することです。
(2)制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
以下のような言動が該当します。
- 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を上司に相談したところ、上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと。
- 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し、請求を取り下げるよう言うこと。
- 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、請求をしないように言うこと。
- 労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、その請求等を取り下げるよう言うこと。
(3)制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
労働者が制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、又は専ら雑務に従事させることをいいます。
②「状態への嫌がらせ型」
「状態への嫌がらせ型」とは、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
1.対象となる事由
「状態への嫌がらせ型」の対象となる事由は以下の5つです。
対象となる事由 |
---|
①妊娠したこと |
②出産したこと |
③産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと。 |
④妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと。 |
⑤坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと |
2.防止措置が必要となるハラスメント
(1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇その他の不利益な取扱いを示唆することです。
(2)妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司・同僚がその女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置と禁止事項
男女雇用機会均等法第11条の2及び育児・介護休業法第25条では、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。併せて、事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱いも禁止されています。
男女雇用機会均等法
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条の3 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 第11条第2項の規定(労働者に対する解雇その他不利益取扱い禁止規定)は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。
育児・介護休業法
(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、事業主が必ず講じなければならない具体的な措置の内容は以下のとおりです。
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 妊娠・出産・育児休業等に関する以下の内容を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容
- 妊娠・出産等、育児休業等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ること
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントがあってはならない旨の方針
- 制度等の利用ができること
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定めること。
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応すること。
職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
- 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
- 再発防止に向けた措置を講ずること。
1から3までの措置と併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
- 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。
妊娠・出産等、育児・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
男女雇用機会均等法第9条第3項では、女性労働者の妊娠・出産等厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。
男女雇用機会均等法
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第9条の3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの例
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 降格させること。
- 就業環境を害すること。
- 不利益な自宅待機を命ずること。
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 不利益な配置の変更を行うこと。
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止
育児・介護休業法第10条等では、育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。
育児・介護休業法
(育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児・介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの例
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 自宅待機を命ずること。
- 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
- 降格させること。
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 不利益な配置の変更を行うこと。
- 就業環境を害すること。
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
【参考資料】
・職場におけるハラスメント対策パンフレット(厚生労働省)
・ハラスメント対策の総合情報サイト あかるい職場応援団(厚生労働省)
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